問題行動への対応策「ものを盗む」(後編)
前回のコラムでは、X君の問題行動である「ものを盗むこと」についてのエピソードをご紹介しました。
今回はその対応策について協議した内容をご紹介します。
X君の問題行動について担任の先生はあることに気が付きました。
・X君がプリントを隠したりするのは、担任の先生以外がいるところでは起きることはほぼない。
・商品を盗んだ店の店員さんは幼いころからの顔見知りの相手で、その店以外では一度も商品を盗んだことはない。
ここで、X君の問題行動に一つの仮説を立てました。
「X君がものを隠したり盗んだりすることは”注意引き”(相手の興味を引くための行動)ではないか?」
「X君にとってコミュニケーションのきっかけの役割を果たしてしまっているのではないか?」
一般的に「注意引き」への対応は以下のようなものが挙げられます。
①注意引きを起こさせないように環境調整を図る(物品を置かないなど)
②注意引きに反応しない(無視、無反応)
③注意引きに代わる”適切な行動”を促す(代替行動)
それを踏まえて、先生方と対応策を協議しました。
①はなかなか難しい。現実的でない。
②はできることはできるが、「相手と関わりたい気持ち」は尊重してあげたい。無視されるとなおさら注意を引こうとエスカレートする危険性もある。
③は、できそう。
協議の結果、②を少し取り入れ、③を進めていくことになりました。
それぞれの具体策は以下です。
②X君がものを盗んだり隠したりした場面に遭遇した時、周囲は「塩対応」(反応を薄くする、最低限の反応に留める)という対応で統一。
※これまでは「あれ?プリントがない!」「なんでこんなことをしたの?」「なぜいけないことかわかる?」など、やり取りが増えるような反応(=X君にとっては嬉しいこと)をしていました。
③「適切な声掛け」を促す。
「◎◎先生、今日は元気ですか?」、「昨日は何を食べましたか?」、「何のテレビが好きですか?」、「好きな○○は何ですか?」など。
X君から適切な声掛けが出てきたら、それに対しては意識的にいつもよりも多めにやり取りをします。「適切な声掛けをすると、やり取り(嬉しいこと)が増える」という体験を積み重ねます。
対応を続けて数週間。
”盗み”は完全になくなってはいないものの、X君のほうから「適切な声掛け」が増えるようになりました。テーマは自分が話したい内容に限られますが、言葉でのやり取りの楽しさを体験を通じて感じているようです。
問題行動(盗み)を軽減させ、適切な行動(声掛け)に代わっていくまでは、周囲が対応を統一させる時期が必要です。先生方は、これからも”塩対応”をしつつ、正しいコミュニケーションを伝え続けていきたいとおっしゃっていました。
問題行動に対しては、周囲がチームとなり戦略的・計画的に関わっていくことが重要です。改めて、X君に教えられたケースでした。