デンマークの7月は北欧らしい夏を迎えています。太陽の恵みを受けながらも20℃前後の清涼な気候はちょうど夏休みと重なり、家族ぐるみのヒュッゲが楽しめる季節です。夏至は過ぎましたが、朝4時前から夜10時くらいまで明るいので、一日の大半が光に溢れ、一日を長く楽しめます。冬半期には薄暗い時間が一日中続く国では、夏の溢れんばかりの光を神のように崇めるのです。

 

 

 

「グレネスミネ」では夏休みを楽しむ家族で賑わっています。ミニ豚やミニ山羊などの小さな動物は、夏休みの人気者。垣根越しだけではなく、垣根を越えて自ら飼育場に入り、動物たちと触れ合う機会は、小さな子どもが安心して楽しめる自然体験として人気があります。

 

 

 

オーガニックの野菜やベリーも旬を迎え始めました。入り口には収穫できるものが一覧でき、畝には「収穫できます」という札が立てられています。来訪客が畑で自ら収穫した野菜やベリー、花などをカフェに持ち寄り、そこで会計するシステムです。少し話が逸れますが、入り口や出口にコントロールを持たない自己申告制というのは、デンマークの高い倫理性や道徳性の一面を表しているように思います。

 

 

 

デンマークは「土から食卓まで」のスローガンを掲げた食育に熱心な国で、オーガニックやサステイナブルの考え方も一般に広く浸透していますが、日常の生活では、野菜やくだものはスーパーにあるものという感覚に陥りやすく、土で元気に育っている野菜やくだものを見たことがない子どもが大勢います。そのような環境だからでしょうか、子どもを森のようちえんに通わせて、自然と密着した暮らしを体験させることに重きを置くことや、休暇を利用して子どもと共に自然を体験することに熱心な家庭が多いように感じます。「グレネスミネ」で旬の野菜やくだものを自ら収穫できる機会は、そのような家庭にぴったりのスペースです。

 

 

 

「グレネスミネ」は教育や就労に特別支援が必要な人々を援助する企業ですが、精神的、身体的な理由で一般の教育を受けることが難しい16歳から25歳の若者を対象にした国家制度「STU」にも対応しています。現在、「グレネスミネ」では、90名の若者が「STU」の対象者として仕事に携わりながら高等学校に相当する教育を受けています。デンマークの教育機関での夏休みは、6月下旬から8月上旬もしくは中旬までの7〜8週間ですが註1、「グレネスミネ」でも「STU」対象者には、6  月下旬から7週間の夏休みが適用されます。したがって、7月は生徒抜きの正社員と時間社員で運営しています。

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デンマークでは、6月下旬から8月下旬までの間、一般の就労者にも三週間続けての夏休暇が保証されていることも特筆するべきかもしれません。夏休み中の運営はパズルを組みあせるように難しいという声も聞きますが、一般社員が全員交互に三週間の夏休みをとれるのですから、素晴らしいシステムとしか言いようがありません。家族揃ってゆっくりと夏を謳歌できるのは、国のシステムに支えられている部分もあるのですね。

 

「グレネスミネ」には、①厨房、②ベーカリー、③園芸、④鍛冶・木工房、⑤グリーンサービス、⑥コペンハーゲンドーム、⑦動物飼育、⑧ピットストップ註2いう8部署が設けられていますが、これらの部署を統括したような形で「グレネスミネ・カフェ」が存在します。

 

「グレネスミネ・カフェ」は温室を利用しています。一見ではカフェに見えません。火曜日から日曜日までの週6日、10時から15時までの営業です。温室にはカフェと園芸販売という二種類のスペースがあります。カフェ・スペースでは、厳選素材を使った焼き立てパンやペストリー、焼き菓子などが売られています。カフェの掃除や来訪客を迎える準備、商品の販売など、STUの生徒が担当します。商品はカフェで楽しむことも、持ち帰ることもできます。カフェ・スペースには、木工・鍛冶工房で製作された机や棚、動物飼育部で制作された防虫効果のある毛玉なども販売され、グレネスミネでの多様な活動を来訪者に紹介するスペースにもなっています。また、グレネスミネで働く若者の作品展示販売などの芸術活動の紹介にも使われています。

 

 

 

カフェ・スペースは通年で運営していますが、園芸販売のスペースは、サスティナブルな思想を反映し、4月下旬から11月下旬までの7ヶ月間の運営です註3。このスペースでは所狭しと飾られている多種多様な植物ばかりではなく、自ら畑で収穫した野菜やくだものや花、温室で収穫したトマトやきゅうり、園芸部の温室で選べるエディブルフラワーやハーブなどの会計も行なっています。花が豊富な時期には、ブーケを用意しておくことも。自分で摘む時間のない顧客に人気のある商品です。

 

 

 

「グレネスミネ・カフェ」の主任はマリアさん。現在、STU対象の若者2名、特別雇用対象者5名の他、12名のパートさんで運営しています。パートさんは、近くに住む年金受給者が楽しみで勤めているスタイルが大半とか。花が好きな人が多いのも特徴です。10数年ほどコミュニケーションを専門に経歴を積んできたマリアさんは、「グレネスミネ・カフェ」でのコミュニケーション力を介して、オーガニックやサスティナブルに興味を持つ人々に「グレネスミネ」での活動をもっと広く認知してもらえるよう努力したいと熱く語っていました。また、現在は、衛生法の関係で、サンドイッチなどの調理パンを提供することが許可されていないのですが、近い将来、このハードルを解決し、お茶のひとときだけでなく、軽食やランチも楽しんでもらえるスペースにしたいとのこと。子ども連れの家族やお年寄りがお弁当なしでも一日ゆっくり過ごせるスペースになる日が楽しみです。

 

 

 

5月に取材に行った際、カフェ併設のスペースをグリーン・サービス部の男の子が黙々と農耕機でならしていたのが心に残りました。元々、温室があったスペースですが、夏に向けて園芸部が観賞用の切花として使える花を栽培できるように畑に作り替えるための作業だと聞きましたが、今回の取材時には、その畑に色とりどりの花がたくさん咲き誇っていました。自分で思い思いの花束を作りながら、花を摘んでいる来訪客の姿が印象的でした。

 

 

註1)休暇を年間でどのように組み合わせるかについては各種教育機関で通学日数が年210日以上になるように設定する規則になっています。大学などの高等教育機関はもう少し長い休暇が設定されています。

註2)「ピットストップ」とは、本来、カーレース中に給油や修理のためピットに停車することを指しますが、グレネスミネでは、人生を進んで行く上での、ほんの少しの休憩所のような役割を持つ部署の名前として使っています。他の人よりも多くの特別支援が必要な若者が、必要とする支援を受けながら、次の課題に取り組む力が生まれるまでの期間を過ごすのがこの部署の役割です。

註3)残りの4ヶ月間は、園芸部の温室で求めることができます。

<謝辞> この記事の執筆にあたり、グレネスミネ広報部、カフェ事業部のご了解とご協力を賜りました。ここに感謝の意を表します。

写真協力: Jan Oster

執筆:くらもとさちこ

広島県出身。デンマーク人の夫、ティーンエイジャーの息子と三人で、コペンハーゲンで暮らす。

30年に及ぶデンマークでの暮らしを営むとともに、幅広い文献にも目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。デンマークの高等教育機関でも健康と栄養の学位を取得。20年近く食分野を中心にデンマークと日本の文化を紹介する企画や執筆に携わっている。2020年4月には誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。自身のホームページwww.kuramoto.dkとインスタグラム@sachikokuramoto.dkでは、折々のデンマークの食べごとやライフスタイルを発信している。