みなさま、お正月はどのようにお過ごしになられたでしょうか?今年が読者のみなさまにとって実り多い年になることをお祈りいたします。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年の<デンマークの暮らしとヒュッゲ>は、デンマークの首都コペンハーゲン中心部から車で西へ30分ばかりのところにある特別支援を必要とする人々の場「グレネスミネ」に焦点をあてて、四季を通した活動をご案内したいと思います。

 

 

車で30分圏内にお住まいの方にとって、「グレネスミネ」とは、いつ行っても焼きたてのおいしいパンを買うことができ、ときには、併設のカフェで友だちとおいしいお菓子やデニッシュでゆっくりとした時間を過ごし、春には野菜の苗を分けてもらい、初夏から秋にかけては、有機農法で丁寧に育てられたハーブや野菜、くだものが入手でき、夏休みには小さな子どもと一緒に羊や豚や鶏を観に行ったり、苺狩りやトマト狩りを楽しむ、そんな自然に恵まれたヒュッゲがたくさん詰まった場所です。

 

 

 

 

 

「グレネスミネ」とは、デンマーク語で「グレネスを偲ぶ」という意味です。「グレネス」は、1969年に「平等」という全国組織を創設し、特別な支援を必要とする人々のために活動したインガ・アグネテ・グレネスという女性を指します。この団体は現在も特別な支援を必要とする人々に関する支援活動や啓蒙活動を全国的に展開しており*、「グレネスミネ」も特別支援学校などと並んで、この団体の一員となっています。

 

 

 

「グレネスミネ」は、35年に渡り、教育や就労に特別支援が必要な若者が将来的に意義ある暮らしが営めるよう援助する活動を行なっている「ソーシャルエコノミー」企業です。これまで700名以上が、「グレネスミネ」での実習、STUと呼ばれている特別な教育支援制度、生活支援制度を利用してきました。現在は90名の若者が「グレネスミネ」の活動に参加しています。

 

 

 

ところで、「ソーシャル・エコノミー」企業とは、どのような企業を指すのでしょうか?

端的に言えば、デンマークの「ソーシャルエコノミー」企業とは、企業の活動と収益を通じて、特定の社会的目的を促進するために事業を行う民間企業です。

デンマークでは、「ソーシャル・エコノミー」企業は国の認定で正式登録されますが、その条件は、次の通りです。

▶社会的目的を持っていること

▶行政機関や独立行政法人などの公的機関に属していないこと

▶ビジネス志向であること(自社で生産したものを販売して収益を確保すること)

▶企業活動に社会的関与と責任を持ち、納税後の利益を社会的行為に還元させること

 

a) 自社に再投資する

b) 他の登録済み「ソーシャル・エコノミー」企業に投資する、もしくは、寄付する

c) 他の組織に寄付する

d) 事業主への配当などの利益分配の限定的なものとする

e) 無報酬という形での就労もあり得るが、基本的には就労者および管理職は報酬を受ける

 

 

「グレネスミネ」も「ソーシャル・エコノミー」企業として、自社で生産・製造した商品を一般消費者と法人に向けて販売していますが、職務内容の開発と経済的な成長は、民間企業や公共機関との提携にも力を注ぎながら、国連の「持続可能な開発目標」の

11. 住み続けられるまちづくりを

12. つくる責任 つかう責任

13. パートナーシップで目標を達成しよう

に基づいた形で行われています。

「グレネスミネ」での活動は「手仕事」に特化されており、料理、園芸、金物・木工芸、動物の世話といった分野で活動を行なっています。「手仕事」への特化は、自社で生産・製造した商品を販売して収益を上げる手段であると同時に、利用者が将来的に就職しやすいことを考慮した上での選択です。また、民間企業や公的機関との協働により、イケアなどの大手企業での実習や就労への橋渡し役も担っています。「グレネスミネ」は、仲間と一緒に働く生活を通じて、個人が成長できる枠組みを用意し、就労機会を得ることが難しい人々に向けて、心穏やかに自活できる暮らしが実現するための支援を行う組織なのです。

 

 

 

「手仕事」に特化された「グレネスミネ」の商品は、一般消費者だけではなく、法人に向けても生産・製造されており、世界的な知名度を誇る北欧キュイジーヌの先駆け的存在であるレストラン「ノーマ」、デンマーク王国国会、コペンハーゲン動物園も取引先となっています。「グレネスミネ」製の商品購入は「グレネスミネ」という組織が企業として成長していく支援に繋がるだけではなく、社会の端にいる特別な支援を必要とする人々が、仕事に就き、同僚を得て、暮らしに新しい可能性が生まれることへの貢献に繋がっているのです。素晴らしいことですね。

 

 

 

「グレネスミネ」での「ソーシャルエコノミー」企業としての活動は、次の六つです。

1)厨房

大量調理が可能なプロフェッショナル厨房で、優秀で斬新な考え方を持つシェフをリーダーとして活動しています。現在は「グレネスミネ」のスタッフに向けたランチの用意と「グレネスミネ」に所在する「コペンハーゲン・ドーム」で開かれるイベントやパーティーでの食事を提供しています。

 

 

 

2)オーガニック・ベーカリー

「グレネスミネ」に併設されているカフェの商品とスタッフのランチに使うパンを製造しています。カフェでは、焼きたてのパンやデニッシュ、焼き菓子などが淹れたてのコーヒーやお茶と一緒に楽しめますし、ご自宅用にも販売しています。

 

 

 

 

3)オーガニック園芸

有機農法で育てた野菜やハーブ、エディブルフラワー(食べられる花)、フルーツを一般消費者と民間企業に向けて販売しています。先述しましたが、北欧キュイジーヌの先駆け的存在であるレストラン「ノーマ」にも野菜やエディブルフラワーを卸しています。

 

 

 

4)鍛冶工房・木工房

一般消費者、そして、住宅団体、保育施設、学校、公共機関向けに、机やベンチなどを製作販売しています。

 

 

 

5)グリーンサービス

公共機関や個人のお客様、住宅団体に向けて、屋外の敷地の手入れやタイル張り、定期的な清掃作業などを提供します。また、「グレネスミネ」の広大な敷地の手入れと清掃も担当しています。

6)「コペンハーゲン・ドーム」

「ソーシャル・エコノミー」の学術センター。

企業向けのセミナーやイベント会場、親族パーティーなどの会場として貸し出しも行なっています。

 

 

 

幅広い活動を展開している「グレネスミネ」ですが、来月からは「グレネスミネ」での活動を順々に詳しくご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに。

*全国組織「平等」(LIGEVÆRD)のホームページは、こちらでご覧になれます。(デンマーク語)https://www.ligevaerd.dk

<謝辞> この記事の執筆にあたり、グレネスミネ広報部のご了解とご協力を賜りました。ここに感謝の意を表します。

写真協力: Grennessminde (グレネスミネ)広報部、Jan Oster(一枚目、二枚目、七枚目の写真)

執筆:くらもとさちこ

 

広島県出身。デンマーク人の夫、ティーンエイジャーの息子と三人で、コペンハーゲンで暮らす。30年に及ぶデンマークでの暮らしを営むとともに、幅広い文献にも目を通し、北欧の食文化と「ヒュッゲ」への造詣を深める。デンマークの高等教育機関でも健康と栄養の学位を取得。20年近く食分野を中心にデンマークと日本の文化を紹介する企画や執筆に携わっている。2020年4月には誠文堂新光社から出版された「北欧料理大全」で翻訳と編集を担当。自身のホームページwww.kuramoto.dkとインスタグラム@sachikokuramoto.dkでは、折々のデンマークの食べごとやライフスタイルを発信している。